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Vol.279 『GODZILLA 怪獣惑星』

TOHOシネマズ日本橋にて『GODZILLA 怪獣惑星』を鑑賞。日本が誇る特撮怪獣ゴジラの、初となる長編アニメ映画。

20世紀末、突然出現したゴジラをはじめとした怪獣たちによって人類は7億人に減少。他の惑星への移住を余儀なくされる。しかし、くじら座タウ星eへ向った恒星間移民船アラトラム号が20年をかけて目的地に到着するも、そこは人類が生存できる環境ではなかった。危険な長距離亜空間航行で地球へ帰還するアラトラム号だったが、地球では2万年が経過し、ゴジラを頂点とする生態系の星へと変貌していた。乗組員たちは、ゴジラを駆逐し、地球を取り戻す作戦を計画する。

GODZILLA 怪獣惑星

この作品は、新たなるゴジラ像への挑戦です。60年以上に渡って実写映画として描かれてきたゴジラをアニメという表現方法で映画化する。当然のことながら、求められるのは、アニメならではのゴジラであり、特撮ゴジラとは切り離して考えなければなりません。

しかし、やはり特撮としてつむがれてきたゴジラに対し、観客はそれぞれのイメージを持っているのは事実で、それを踏まえた上でアニメとしてどう描くか。これはかなり難しい。観る側からすれば、どうしても特撮ゴジラと比べるでしょうし、今のアニメを観ていない層もいるでしょう。そこに本作を投じるのはかなり勇気が必要だったと思います。

GODZILLA 怪獣惑星

そこで選ばれた世界が遠未来。日常生活の中に突然現れる怪獣を描く特撮に対し、2万年が経過し、人類のいない地球を舞台にしたSF映画にすることで、その差別化を図ったわけですね。その選択が正解だったかどうかは善し悪しですかね。

遠い未来ということで、自由な想像で描ける分、怪獣映画としてのカタルシスが失われてしまっている面が否めない。縦横無尽に街中で暴れる怪獣の姿こそ、怪獣映画の醍醐味の1つであり、人類が地球を追われる前の回想シーンでは少しだけ登場しますが、基本的には山の中での戦いがメインなので、そうした楽しみはありません。

また、街という比較対象がない分、ゴジラの大きさが感じられないのも残念でした。アニメで描かれるゴジラがどのくらいの迫力を持っているのかを期待していただけに、そのゴジラの大きさが感じられなかったのはもったいなかった。アニメには様々な巨大建造物やロボットなどが登場し、その大きさで圧倒される描写を数々観てきましたが、本作のゴジラにはそれがありませんでした。

GODZILLA 怪獣惑星

SF的な要素をいろいろ散りばめていて、作品の深みは感じられます。その分、説明描写が多く、少々難解な面もあります。そこを、アニメだからなんでもあり的な形にせず、フィクションではあるがリアルな考証もしているようにしたのはよかったのではないでしょうか。

本作ではエクシフとビルサルドという、母星を失った異星人が登場しますが、人類の持っていないテクノロジーの提供と引き替えに地球への移住を希望する話があります。これによって恒星間移民船や亜空間航行、対怪獣兵器といった要素が現代テクノロジーに追加されていることを肯定させているわけですね。いま怪獣が現れたって、移民船すら造れませんから、どうしてもそういう要素が必要だったのでしょう。

しかし、そのあたりの説明や、対ゴジラへの作戦などの説明といった部分がどうしても冗長な感じになります。地球脱出の話がほんのわずかなのに、タウ星eでの話、地球へ帰還することを決める話、そして地球に戻るまでにゴジラをどう退治するかなどが織り込まれ、地球に降り立つまでがかなり長く感じました。

GODZILLA 怪獣惑星

全体として90分ほどの尺しかないのに、前半はこうしたシーンばかりで盛り上がりに欠ける感じはしました。それでいて、登場人物たちの人間関係の掘り下げも薄い感じ。本来であれば、地球へ帰還したときには、登場人物たちに感情移入して、よし、ゴジラと戦うぞ!という展開が望ましいと思うのですが、どうもそこまで乗り切れない雰囲気。

まったくの新作なので、世界観や登場人物などをすべて理解させながら進めないといけないのはわかるのですが、つかみがもう一つ効果的に描けなかったかなという気はします。基本的には、タウ星e付近から始まって、地球へ戻って、ゴジラと戦うという流れなわけですが、例えば、冒頭でゴジラと対峙する、そこまでに至る経緯をカットバックで何度か挟み込みながらの戦いと登場人物たちの描写、登場人物への感情移入ができたら最終決戦、というようにしたら、まったく印象が変わった気がします。

GODZILLA 怪獣惑星

本作は3部作の第1作目なので、本作で必要な要素をすべて説明しきって、2作目以降にがんがん行くということなのかも知れません。しかし、ここでも何回か書いた記憶がありますが、前後編だろうが3部作であろうが、1本の映画として料金を取るからには、その1本で映画として成り立っている必要があります。

序章だから中途半端でもいいというのはいけませんし、続編だから説明なしでいいというのはダメ。それぞれが1本の映画として対価を受け取っていい形にまとまっていることが重要です。では本作はどうかというと、2作目へのつなぎ部分を除いて1本の作品の形にはなっていますし、ゴジラという存在に対してあまりにも非力な人類というまとめ方になっていて、それはそれでありだと思います。

その分、2作目がどう描かれるのかが少々不安。物語としては加速していくと思うのですが、1作目を観ていることを前提にしたシナリオになっていなければいいんですけどね。2作目だけ観て、1本の映画として成り立つかどうか。ここがポイントだと思います。

GODZILLA 怪獣惑星

最後に、ゴジラそのものについて少し書いておきます。先ほど、その大きさが感じられなかったと書きましたが、もう1つ残念なことがあります。とにかく動かない、動いているように見えないという点です。基本的にはしっぽが動いていたくらいの印象でしょうか。

個人的には、ゴジラこそ、アニメだから実現できたという映像が観たかった。実写ではできない動き、撮影できないアングルやカット、そういったものが欲しかったですね。アニメというのは映画のジャンルではなく、表現方法なわけで、だからこそアニメにした意味をもっと出して欲しかったなと思います。

GODZILLA 怪獣惑星

全体としては、ハードなSF映画が好きな人向けという感じでしょうか。ゴジラがアニメになったから観る、くらいのイメージだと厳しい気がしますし、ちょっと人を選ぶ内容かなという気はします。また、あくまでアニメで描かれた、新しいゴジラとして観られる人向けであり、特撮ゴジラを本作に望む人には向かないかも知れません。

『GODZILLA 怪獣惑星』は、全国ロードショー中です。

©2017 TOHO CO., LTD.

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