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Vol.4 『硫黄島からの手紙』

硫黄島からの手紙『硫黄島からの手紙』観賞。悲しいですね。この映画がアメリカ映画であること、日本人としてとても悲しいし、とても恥ずかしい。内容としてはまぎれもなくアメリカ映画であり、そこに違和感は覚えるものの、題材としては日本人の手で作らなければいけなかった作品だったと思います。
違和感を覚えたのは、日本の戦争映画でこれまで描かれてきた日本兵像と、この作品に登場する日本兵が微妙に一致しないという点です。どっちが正しいということではなく、視点の違いからくる違和感だと思います。やはり、どこかアメリカ人の視点という感じがありました。


これまでもたくさんの反戦映画がありましたが、『硫黄島からの手紙』の描き方は、邦画のそれとはまったく違います。邦画の反戦映画では、戦争の悲惨さを訴えるあまり、そこにいる兵士が人間らしくなかったというか、どこか、我々と違う人間のように描かれていたように感じます。しかし本作に登場する兵士は我々と同じ日本人であり、それぞれがそれぞれの人生を過ごしてきたという厚みが感じられました。
日本人は精神世界を描くことにかけては、とても長けている人種だと思っています。時代劇などを見ても、単に歴史的な事実を描くのではなく、その人物像にどれだけ迫れるかを追求しています。しかし戦争映画となると、なぜかその視点が取り払われてしまい、こんないい人がとか、罪のない人達が……というような視点ばかりが強調され、人が死ぬということだけで戦争の悲惨さを訴えようとしている感が否めません。
しかし、本当に描かなければならないのはそこではないんですよね。日米が戦う戦争があって、その時代を一生懸命生きた人達と、日本の未来のために戦った人達がいる。そしていまというこの時は、その上に成り立っているのだということ。硫黄島だけじゃありません。沖縄だけでも広島・長崎だけでもない。日本全体が未来のために血を流したという事実をきちんと理解し、我々はその上に生きていて、さらに言えば、未来のために生きなければならないのではないでしょうか。
主人公である栗林中将の最後の訓辞。諸君らの奮闘に対し、将来の日本人は諸君らを誇りに思い、諸君の霊に黙祷を捧げる日が来るだろう……胸につきささる言葉でした。


このコラムは2006/12/28にゴルフブログ「振り向けばカジュアルウォーターIII」に掲載されたものです。


こころに響く言葉
こころに響く言葉 谷村 新司

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