Vol.231 『バケモノの子』
TOHOシネマズスカラ座での特別先行マスコミ試写にて『バケモノの子』を鑑賞。細田守原作・脚本・監督によるオリジナル長編アニメで、この試写の前日に完成し初号試写が行われたという、できたてほやほやの作品。
人間界とは別に存在するというバケモノの世界。母親と死別した蓮は渋谷の街をさまよっているうち、バケモノの街・渋天街に迷い込む。蓮はそこで出会った、渋天街でも一二を争う強さの持ち主・熊徹というバケモノに九太と名づけられ、弟子となる。粗暴で孤独だった熊徹と、ひとりぼっちだった九太は最初反発し合うが、その共同生活の中で少しずつ変わっていく……。そして時は流れ、青年になっていた九太は偶然、渋谷へ戻る道を発見し、そこで楓という少女に出会うのだった……。
こうしたサイトを運営していると、映画やアニメを素直に観られなくなります。もちろん作品を楽しんではいるのですが、どこかで、どの部分を書くかといったことを考えながら俯瞰して観ている自分がいる。しかし本作は、その導入部分からすっとその世界に入り込んでいけました。
のめり込むというのとはちょっと違うのですが、素直に映画の世界に入り、登場人物とともにその時間を過ごせるというか。2時間という上映時間もあっという間。久しぶりに作品そのものを楽しむことができました。
これまでの作品でも人の成長という部分について描くことの多かった細田監督。本作では、自身にお子さんができたことをきっかけに、父と子の関係について着目して発想したとのことでした。
これまでにも師弟や父子をテーマとした作品が数多く作られてきましたが、基本的には師や父を超えるという点に重点が置かれることが多かったと思います。弟子は師匠を超えなければいけない。息子は父親を超えていかなければならない。息子にとって父親とは、人生の師でありながら、最初に出会うライバルでもあります。心のどこかで父親を超えることを一つの目標としているものです。だからこそ、それを超えるというテーマを描くことが多いわけです。
しかし本作では、もちろんそのテーマも含んでいますが、それよりも、子どもを得ることによって父親も成長するという点が描かれていることが興味深い点でした。昔から男はよく「子どもができて一人前」と言われます。どんなに社会的な地位や知識を持っていても、子ども一人育てられないようでは半人前とみなされる風潮がありました。
これは、子どもができるまでは、わかっているようで実は理解できないことだったりします。具体的に何が変わるのかということの説明は難しいですが、子どもができて初めて気づくこと、そしてそれが自身へ影響を与えることというのは数多く存在します。
本作では、師弟という間柄でありながら、息子を得たように熊徹が変わっていく、成長していく物語でもあります。口が悪く、その言動から人(バケモノ)が寄りつきにくい熊徹。しかし悪いバケモノではないのです。バケモノたちを統率する宗師の候補として、自身に足りないものを九太を弟子にすることで得ていく姿。これはまさに父親そのものです。
その心情を役所広司さんがうまく表現しています。父親としては、子どもに感謝するというのを口に出したりすると照れくさかったりしますが、そのちょっとした心の揺れが行間にこもっている印象を受けました。自分が独身だったり、子どもがいなかったらまったく違う印象・感想を持ったと思いますが、子どもがいる、生まれてきてくれたことについて改めて振り返らせてくれる作品だと思います。世のお父さんがたにぜひ観てもらいたいですね。
声の出演は今回メインキャストのほとんどが俳優・女優でしたが、違和感はほとんどなく、みなさんそのキャラクターそのものでした。ただ、津川雅彦さんの声がどうしても津川さんの顔が頭の中に浮かんでしまう……。津川さんは、演技・声を含めて、キャラクターが完成しているので、声を聞いた瞬間に津川さんだ!という感じになってしまうんですよね。もちろん悪い意味ではありませんが。
もちろん本職の声優さんたちも多数参加しています。宮野真守さんや山口勝平さんはとてもキャラクターに合ってる配役でした。他にも、最近ではメインキャストを務めるような声優さんがエンドロールで複数の名前が並ぶ位置に出てきたりして、非常に贅沢な作品になっています。
一つ残念だったのは食べるシーンでしょうか。食べるシーンを描くのは宮崎駿監督や押井守監督がすごく上手ですが、観終わった後にその作品で出てきたものを食べたいと思ったり、お腹空いたと思ったりします。本作ではそのシズル感が少し足りないかなと思いました。本作を観て、卵かけご飯食べたいなと思えなかったんですよねぇ。不満としてはそのくらいでしょうか。
本作は、観終わった後、とても清々しい気持ちになれる、そんな作品です。内容としても幅広い層が楽しめる作品だと思います。
『バケモノの子』は7月11日より全国東宝系にてロードショーです。
©2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS
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