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Vol.229 『チャッピー』

TOHOシネマズ錦糸町にて『チャッピー』を鑑賞。ニール・ブロムカンプ監督の最新作で、ギャングに教育されたロボットを主人公とする近未来SF映画。

犯罪が多発する南アフリカの警察に導入されたスカウトと呼ばれるロボットは、犯人逮捕、犯罪阻止に大きな成果を上げていた。その開発者であるディオンはスカウトとは別に、自分で考え、成長するAIを完成させていたが、会社のCEOによってロボットへ搭載することができなかった。ある日、スカウトを使って現金輸送車を襲うことを思いついたギャングたちによって拉致されてしまうディオンは、バッテリーが5日しか持たないスカウトのボディにAIを搭載する。成長するAIを積んだチャッピーの誕生である。

チャッピー

この物語の肝は、生まれたての赤ん坊と同じ状態のAIの成長。絵を描いたり、創造性を育む教育をしようとするディオンに対し、ギャングとしての行動を教え込むニンジャ(役名であり本名です)。それによってチャッピーはどう変化し、どのような成長をしていくのか。これが実に人間っぽい。

意志を持ったロボットというのはこれまでの映画でも数々の機体が登場しましたが、ロボットというものを意識しているせいか、どこか機械らしさがありました。チャッピーは思い切り人間に寄せたというイメージです。育ての親がギャング。まあ、ギャングといっても、雰囲気としてはチンピラという感じなのですが、その言動は決して上品とは言えません。しかしかなり人間くさい。それがそのまま反映されるロボットなので本当に人間くさい。

この映画にはシガニー・ウィーバーやヒュー・ジャックマンといった名優が出演していますが、それよりもチャッピーを育てることになるニンジャとヨーランディの二人が非常にいい味を出しています。この二人はラッパーとのことなので、役者ではありません。しかし、そのミュージシャンとしての味がそのまま演じるキャラクターに出ていて、チャッピーの成長に影響を与えている。これがとてもいいし、最後の最後までそのキャラクターありきの物語が進むので実に太い軸になっています。

チャッピー

ヒュー・ジャックマンは、自分の開発した脳波で操縦するロボット・ムースが採用されず、スカウトを没落させてムースを売り込もうとする、ディオンの敵を演じています。ヒュー・ジャックマンが悪役をやるというのは初めてなんじゃないでしょうか。ただ、役所として、元軍人ということを意識しすぎているのか、どうもインテリジェンスを感じない。ムースもロボットなわけで、開発者はそれ相応の雰囲気が欲しいところなのですが、それがないために、ただ暴力的な敵になってしまっている感じ。

ちょっと惜しいなぁと思いました。今回は、マッドサイエンティスト的な敵キャラのほうが似合った気がして、こうした粗野なキャラクターにしてしまったのは残念。そういうキャラクターだからこそヒュー・ジャックマンに似合うといえば似合うわけですが。

本作はニール・ブロムカンプ監督の3作目になるわけですが、デビューから3作連続で映画館で同じ監督の作品を観たのはたぶん初めてだと思います。スピルバーグ監督作品は連続で何本も観ましたけど、デビュー作からではなかったですし、非常に珍しい。テーマなどが興味を引くことを題材にしてるんですよねぇ。

ブロムカンプ監督の作品は、どこかに人間の欲望や、身分の違いによる対立などが盛り込まれているのですが、今回はそのようなテーマは薄く、どちらかというとエンターテインメント寄りになった作品と言えます。

チャッピー

どこか楽しいポップな雰囲気を漂わせながら、バトルシーンなどもこれまでの2作品よりも派手で、臨場感あふれるアクションシーンになっていました。相変わらず、最初から最後までテンポよく進む構成は見事です。1本の映画としてとらえると、かなり楽しめる作品にはなっていますが、これはすごいぞ!というところまでいっていない感じでしょうか。おもしろいんですけど、それだけで終わってしまった感じというか。『第9地区』などは、おもしろいの上にもう一つ積めることがありましたが、今回はその域ではなかったかなというのが素直な感想です。

このブロムカンプ監督の次回作は『エイリアン』シリーズの新作が決まっているので、はたしてどのような『エイリアン』を魅せてくれるのかが非常に楽しみです。

『チャッピー』は全国公開中です。

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