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『幕末太陽傳 デジタル修復版』公開記念「映画と着物」トークショー

日本最古の映画会社である日活の100周年記念事業の一環としてデジタル修復をした、川島雄三監督の代表作『幕末太陽傳 デジタル修復版』が只今劇場公開中です。本作の劇場公開を記念しまして、幕末太陽伝の舞台となった北品川に所在する尾張屋呉服店より大橋登氏をお招きし、「映画と着物」と題したトークショーが1月7日(土)に開催されました。また、本作にちなみまして着物割引を実地中です!
場所:テアトル新宿
日時:1月7日(土) 13:30の回上映後
登壇ゲスト:大橋登氏(北品川商店街 尾張屋呉服店)


・大橋登氏
尾張屋呉服店は映画の舞台となった土蔵相模からは約300mくらいの場所にあり、創業明治23年と、本作が描かれる時代の約30年後くらいから商売をはじめ、私で五代目になりました。北品川の商店街は通りの幅や商店など一軒一軒の大きさも映画と同じくらいです。もともと海沿いにあったようだが、今はもう海岸線が3kmくらい埋め立てられていて普通の商店街になってしまいました。
「映画と着物」トークショーということで、まず本作では3種類の着物の着こなしが見受けられます。女郎・芸妓・女中さんでそれぞれ異なります。まず、左さん・南田さん演ずる女郎さん達は、長襦袢をお召しになり帯を前に結んで、夜は綺麗な染物の着物を羽織ってお商売なさっている。昼は喧嘩シーンのように襦袢の上に簡単な羽織りをお召になっているようです。今とはっきり違うのは帯を前に結ぶというところです。江戸時代はミセスの方が後ろで結び、そうでない方は前に結ぶという風習があったようです。また、そこから若くてきれいであることの象徴として前に結ぶ風習があった。
二つ目の芸妓さんは、どんちゃん騒ぎの場面にて今にかなり近い着物のお召方をしている。一般的な折帯を後ろで結んで襦袢を着て、その上から染物の着物を着ている。今とほとんど変わらないスタイルです。
一方で、芦川さんが演じる女中さんは当時の庶民の着方にかなり近い。織物の着物をものすごく短く着ていますよね。暖房がない時代で寒いですから下に厚手の腰巻を巻いて、その上から着物をすごく短く着ています。この短さの理由として、外を走り回ったり水仕事をしたりするので汚れないようにというのが一つ。もう一つは、ぞうきん掛けや水汲みなどでよく膝を付く場面が多く、同じ場所ばかりついていると抜けてしまうので少しずつ膝をつく場所をずらしていたことにあります。また、膝が抜けると一度ほどいて仕立て直しをするのですが、天地逆さにして直すと少しずつ短くなっていったのではないかと思う。映画はその辺りまで計算されて作られていると思います。
さらに、女郎さんたちは長襦袢の襟を絞りのとても豪華なものをつけているのに対して、女中は安物の別珍の黒の襟をつけていますね。以上のように、すごく実用的な着物とその着方というところで、映画はとても忠実に再現していると思います。
また、男性陣の着方については、フランキー堺の着方がとてもかっこいい。足で浴衣を投げて、宙に舞った浴衣を両手をあげて着るのがとてもかっこいいです。また、フランキーは長襦袢を着ておらず、着物の下はステテコ姿です。おそらく、走り回ったりするときに長襦袢だと足が出て体裁が悪いというので、代わりにかっこいいグレーっぽいステテコを履いています。
当時は絹がご禁制の時代もあったようで、良い着物を着たくても着られないという時代には、隠れたおしゃれとして長襦袢や羽織りの裏地に凝った柄をつけたものや、絹で出来たステテコなども作られていました。その話を聞いて僕もおしゃれをしてやろうということで絹のステテコを作ったのですが、1年履いたら擦れて破けてしまいました(笑)。やはりステテコは木綿が一番良いようです。
映画の設定は江戸時代ですが、江戸時代と現代での着物の違いとしては、やはり今の着方の方がルールに乗っ取ってきれいに着るということに徹しています。また、江戸時代の着物は紬やちりめんなど糸の技術が今ほどは良くなかった。製糸工場ができたのが明治時代以降と言われていますので、糸によりをかけて作る、ピンとした糸がなかなかできませんでした。染物か紬のような織物がメインだったようです。染め方も限定されており、今のような化学染料もない時代、発色も限られていました。絞りか糊置きで柄をつけるかの2パターン程しかなかったのではないかと言われていますので、着物のレパートリーも少なかったです。
呉服屋として感じる着物の良さとしては、やはり長く着られるというところです。ほどいて洗ってまた仕立て直しをすると、いくらでも長い間着られる。とてもエコな服で、ずっと着られるものなのでぜひお召しになってください。
また、今の時期ならではの着こなしのポイントとしては、新年あけましておめでたいので新しいものをぜひお召しになっていただきたいです。何をお召しになるかは本当になんでも良いと思う。この季節にこの柄というようなルールもあるが、基本的には着て楽しいものを好きに着るのが一番だと思います。
映画の話に戻りますが、映画の舞台である相模屋は、僕が生まれたころには相模ホテルになっていました。その相模ホテルが取り壊しになる時に、一度見ておいた方が良いと祖父祖母に言われて小学生の時に見に行ったことがあります。この映画を見てとても驚きましたが、本当に忠実に再現されています。
冒頭のシーンでフランキー堺の一陣がぞろぞろ横に並んで入ってくるシーンで、廊下の幅がやたら広いことが目につく。相模ホテルのご主人に聞いたところ、昔は江戸時代に参勤交代で殿様が籠でいらっしゃる折に、殿様を外で下ろすわけにはいかないので籠を廊下まで担いで入ってきたそうなんです。
また、坂道の途中に立っていたため、入口が二階で下に降りても上に上がっても座敷という作りも全く一緒です。一階はそのまま海につながっていて、映画でもあるが、軒の下にボードがぶら下がっていました。相模ホテルの頃にはもう大分沖が遠くなっていたが、昔の名残を残すために船が軒からぶら下がっていたのを覚えています。そういった細かい所まで忠実に再現されていて、驚きました。
●着物割引実施中
ご鑑賞当日お着物にてご来場のお客様はご本人様に限り、『幕末太陽傳 デジタル修復版』当日料金が500円引きです。
割引料金
一般料金:1,800円→1,300円
学生(劇場によって適用範囲が異なります):1,500円→1,000円
実施劇場
テアトル新宿・ヒューマントラストシネマ有楽町・キネカ大森
※当日劇場窓口にて、一般、学生のいずれかのチケットをお買い求めいただいたお客様のみ対象
※その他割引・サービスデーとの併用はできません
●『幕末太陽傳 デジタル修復版』
ここでしか観ることができない、豪華キャストの競演!
半世紀の時を超えて、銀幕に甦る!!
時は幕末、文久2(1862)年。品川の地に北の吉原と並び称される岡場所があった。相模屋という遊郭へわらじを脱いだ主人公の佐平次は、勘定を気にする仲間三人を尻目に、呑めや歌えの大尽騒ぎ。実はこの男、懐に一銭も持ち合わせていないのだが・・・。
“居残り”と称して、相模屋で働くことにした佐平次は八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍!
巻き起こる騒動を片っ端から片付けてゆく。自らの身に起こった困難をものともせず、滞在中の高杉晋作らとも交友を結び、乱世を軽やかに渡り歩くのだった。
来る2012年に100周年を迎える日本最古の映画会社である日活。
数多あるライブラリーの中から、後の100年まで残したい1本として、日活および川島雄三監督の代表作である本作をデジタル修復する作品に選んだ。
撮影当時のスタッフが修復に携わることで、日本映画黄金期の勢いを感じさせる作品として生まれ変わった本作は、50年代のオールスター・キャストが織りなす、笑いあり涙ありの江戸の“粋”な心に触れる作品だ。古典落語「居残り佐平次」を軸に、「品川心中」「三枚起請」など様々な噺を一本の物語に紡ぎ上げ、完成して54年、日本文化に多大なる影響を齎し続けている。
出演:フランキー堺、南田洋子、左幸子、石原裕次郎、芦川いづみ、金子信雄、織田政雄、岡田真澄、植村謙二郎、河野秋武、二谷英明、西村晃、高原駿雄、小林旭、武藤章生、小沢昭一、梅野泰靖、新井麗子、菅井きん、山岡久乃/殿山泰司/市村俊幸
監督:川島雄三
脚本:川島雄三、田中啓一、今村昌平
撮影:高村倉太郎
照明:大西美津男
美術:中村公彦、千葉一彦
録音:橋本文雄
音楽:黛敏郎
修復監修:橋本文雄、萩原泉
共同事業:東京国立近代美術館フィルムセンター
技術協力:IMAGICA、IMAGICAウェスト、AUDIO MECHANICS
1957年/110分/モノクロ/スタンダード/©日活
配給:日活
『幕末太陽傳 デジタル修復版』
テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国絶賛上映中!
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