Vol.276 『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』
マスコミ試写にて『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を鑑賞。スティーヴン・キング原作のホラー映画。
静かな田舎町デリーで相次ぐ子どもの失踪事件。ビルの弟も血痕を残して行方不明となった。そのビルの前に突然現れた“それ”。ビルに恐怖を与える“それ”は、不良少年たちにいじめられるビルの仲間たちルーザーズ・クラブの前にも現れ、子どもたちは恐怖を感じ続ける。しかし、どこにでも出現する“それ”の姿は大人たちには見ることができないことを知ったルーザーズ・クラブメンバーは、“それ”に立ち向かうことを決意する……。
80年代にベストセラーとなった「IT」。神出鬼没でどこにでも現れ、子どもたちを恐怖のどん底に陥れるピエロ「ペニーワイズ」によって引き起こされる子どもの失踪事件を軸にしたホラー。下水道に潜んでいたかと思うと、自分の部屋やバスルームに現れたり、図書館や町の中などにも現れ、いつでもルーザーズ・クラブを監視している“それ”は、とにかく不気味で、読者のトラウマになったのがよくわかる恐怖の存在です。
その映像もショッキングな描写が多く、しかも、そういったシーンがなんの変哲もないところで突然始まったりします。ホラー映画によくありがちな、そろそろ来るな……的な空気が流れていないところで始まるので、ドキッとする映画が苦手な人はご注意を。
BGMであったり、画面に登場している人物に死角が生じていたりといったわかりやすい前触れがありません。しかも、昼間の町とか河原といった、ホラーとしてはあり得ないシチュエーションで繰り出される恐怖。これはすごいです。音響の使い方などもとてもうまかったです。
スティーヴン・キング原作の物語はこれまでにもいろいろ映像化されてきましたが、どうもB級映画っぽい作りの作品が多く、当たり外れが多いという印象を持っています。それは原作ではなく、演出であったり、視覚効果であったりという部分が大きいですね。今回の作品は……当たりです。
そして特筆すべきことは、単なるホラー映画ではなく、登場する子どもたちの描き方が素晴らしいことです。弟を亡くし、悲しみに暮れる内気なビル。ふざけてばかりのゲーム好きのリッチー。あらぬ噂を流される孤独な少女ベバリー。病弱なエディ。猜疑心の強いスタンリー。図書館に引きこもっているベン。黒人であるために疎外感を抱いているマイク。この7人一人一人の過ごしてきた環境から、その性格の成り立ちが感じられるそれぞれのエピソードなどが丁寧に描かれています。
そして、それぞれが抱える問題と“それ”の関係がきちんと見えるシナリオと、“それ”に立ち向かうにいたる過程の描写は、子どもたちの成長物語として見応えがあります。アメリカでは「ダークな『スタンド・バイ・ミー』」という表現をしているメディアがあるようですが、まさに、同じキング原作の『スタンド・バイ・ミー』を彷彿とさせる話になっています。
原作では50年代が舞台になっているのですが、これを80年代にもってきたのも正解ですね。50年代はやはり遠すぎて、昔のアメリカンホームドラマで観たような世界になってしまい、観ている側も共感しづらくなってしまうかなと。80年代であればこういう時代だったのだなとすっと入っていける感じがあります。
作品としてはホラー映画ではありますが、観終わった後、とてもさわやかな気分になれる作品なので、ホラーは苦手という人にもぜひオススメしたい映画です。むしろ、本作をホラー映画として紹介しなければならないことに少し違和感を感じるくらいです。ホラー映画であることは間違いないのですが……。
それにしても……アメリカのいじめっ子というのはどうしてああも憎たらしいんでしょうね。やることが過激だし、観ていてイラッとするというか。その分、いじめられる側であるルーザーズ・クラブに共感できるわけですけどね。
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、11月3日から丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショーです。
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