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Vol.155 『カウボーイ&エイリアン』

カウボーイ&エイリアンTOHOシネマズ錦糸町にて『カウボーイ&エイリアン』観賞。豪華なスタッフ・キャストによるSF映画で、初めて予告編を観たときから観に行こうと決めていた作品。
タイトルを一見すると、劇場公開もされないようなB級映画のようなイメージを受けますが、内容はきちんとSF映画であり、西部劇である、しっかりとした作り。スピルバーグが製作総指揮、ロン・ハワードが製作、そして『アイアンマン』のジョン・ファブローが監督。そこにジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグと、インディアナ・ジョーンズのハリソン・フォードの共演が実現。これだけを並べても贅沢感あふれる感じがしますよね。


シリーズ物があふれる現在の映画の中で、久しぶりに「単独作品で、これが初見となる映画はこう作るべきだ」というお手本のようなシナリオを観た気がします。記憶をなくしている主人公の謎を主軸にし、その過去に起こったことを少しずつみせていきながら物語を展開していく。さらに意味深なセリフを語るヒロインをからめてSFの要素を強調しつつ、その対抗軸として西部の町・時代にそくした登場人物や人間関係を描いていく。
宇宙人が人をさらったり、主人公の腕についた武器が強力な破壊力を持っていたりといった要素はありますし、最終的には宇宙人VS地球人という戦いとなるわけので、SF映画であることは間違いないのですが、物語としては西部劇として、その上に登場人物たちの人間ドラマをきちんと描いているという印象が強いです。
前半の描写自体、構図として西部劇。口数の少ないよそ者のガンマン。そのガンマンをお尋ね者として捕らえようとするシェリフ。町を牛耳っている実力者とその権威を傘にいばっているドラ息子。そのドラ息子の面倒を見るネイティブアメリカン。店を持つことを夢みてこの町で酒場を営む夫婦。これらの人間関係だけで十分物語が作れますよね。
その主人公であるガンマンがダニエル・クレイグで、町の実力者がハリソン・フォード。記憶をなくす以前にその実力者の金貨を奪っていたことで反目しあっている二人が、宇宙人による襲撃によってさらわれた町の人々(ドラ息子含む)を救出に向かうことで共闘を果たすことになるわけですが……。ここまできたらバディ物の王道というべき展開になるわけです。
この映画ではそれだけではなく、強面の実力者が印象とは違う面がいくつもでてきたり、子供に対しての接し方なども含め、非常に魅力的なキャラクターに描かれています。宇宙人が出てこなかったらまさに二人の対決が主軸になるでしょうし、当然、悪役になるべきキャラですが、そこに深みを与えているのがいい感じ。しかもハリソン・フォードが演じているという部分で、観客のそのキャラの見方をうまくいいほうへ誘導しています。
対称的に主人公のほうはというと、ほんとに昔の西部劇の主役を観るようなキャラクター。イーストウッドやマックィーンが演じたようなガンマンが久しぶりに観られたという気がします。ダニエル・クレイグというとボンドぐらいしか知らないのですが、ガンマン姿がこんなに似合うのかと感心しました。素直にかっこいい。
この映画は続編を作るべきではないと思うのですが、今回の主人公であるロネガンのその後の話をSF要素抜きで西部劇として作るのであれば観てみたい気がします。西部劇というジャンルそのものがほとんど作られなくなってしまった現在、こういう魅力的なキャラクターができ、それを魅力的に演じる役者が登場したわけですから、その方向だったらすごくいいんじゃないでしょうか。
逆に言うと、この映画はSF映画ではありますが、その部分での魅力は多少薄いという感じでしょうか。その圧倒的な力に対抗するために、主役二人のほか、ロネガンが率いていた強盗団やネイティブアメリカンたちを巻き込んで、宇宙人VS地球人という戦いに突入する展開……この宇宙人の部分を、たとえば外国の軍隊とか極悪な強盗集団とかにしてしまってもまったく問題なく、西部劇として成り立つので、要らないっちゃあ要らないわけです。
クリーチャーや宇宙船のデザイン、その存在感などに目を見はる要素はほとんどなく、これこそ宇宙人ですという典型的な例にそっているのでよけいにそう思うのかも知れません。その分、地球人側のドラマをしっかり書け、二人のキャラクターを活かせるシナリオになったわけですが。
まあタイトルがタイトルなのでSF的なことを期待して観に行く人も多いと思いますし、そうするとどんな宇宙人が出てきて、どんな派手な戦いがあるんだろうというように思って観る人も多いと思います。最近のSF映画と比べたらそういう部分では弱いので、そういう視点で評価されてしまったり、そういう狭い視野でしか観られない方の評価はかなり厳しくなってしまうかなという感じ。
観終わった後の素直な感想としては、昔、スピルバーグがアンブリンを設立して様々な監督にいろいろな作品を作らせていた頃の映画を久しぶりに観たという感じでしょうか。最近のスピルバーグ製作総指揮という映画、なんていうか無難というか、こうしたら受けるという感じの作り方が多く、ちょっと物足りなかったんですよね。
こう……ギラギラとした野心が感じられる作品が少なくなったというか、とにかく頭の中にあるおもしろいものをたくさんみんなに観せるんだ!という勢いがないというか。1980年代に毎年何本も公開されていたスピルバーグがらみの作品はとてもおもしろかったですし、やっとそういう作品をまた作ってくれたなぁと思います。
娯楽作品として2時間楽しもうという感じで観るのがいいでしょうね。提示された前半での謎や伏線をきちんと拾いながら最後まで破綻なく書き上げられたシナリオという点は、私は高く評価したいと思います。驚く部分が少ないといえば少ないですが、映画って細かい部分をどうこういうものではなく、娯楽だよね、エンターテインメントだよねということを再認識させてくれる映画でした。
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