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Vol.257 『この世界の片隅に』

TOHOシネマズ市川コルトンプラザにて『この世界の片隅に』を鑑賞。戦前から終戦直後までをすずという女性の視線で描いた劇場版アニメ。

広島で暮らしていた絵を描くのが好きなすず。18歳のときに縁談が持ち上がり、呉に嫁ぐことになった。戦時で物資が欠乏し、食料が配給制になる中、工夫をこらして生活していくすず。昭和20年、米軍による空襲が激化する日本。そして広島に原爆が落とされ、玉音放送によって日本の敗戦の報がもたらされる……。

この世界の片隅に

この映画はマスコミ試写の案内をいただいていながら拝見することができなかった作品。多くの映画お試写状はいただくのですが、最近なかなか観に行くことができず、映画会社の方々にたいへん申し訳ないことをしています。

公開後もなかなか観に行けず、年明け早々にようやく観ることができました。が、うまく言葉がまとまらず、レビューがこんなに遅くなってしまいました。

本作は、すずという女性が戦時という非常時に、様々な工夫をこらして家庭を支えていく話です。戦争映画によくありがちな反戦色や、人の死を持って涙を誘うような描き方ではなく、その当時としてはごく当たり前であったであろう日常が描かれます。すずの性格もあって、全編を通してほんわかとした雰囲気です。

少ない食料を工夫したり、道ばたの草を使った料理を作ったり、古着をもんぺにしつらえたり……周囲との情報交換をしながら、たくましく家を支えていきます。

こうした形で、戦争時の日常が描かれる映画というのは実は少ないんですよね。戦争映画といったら通常は戦場の物語で、国内の様子は少し触れられるだけという映画が多い。『ガラスのうさぎ』という映画がありましたが、物語のメインとなるのは東京大空襲ですし、戦争の悲惨さなどを入れて訴えるのが常道。

本作ではそういった部分がなく、あくまですずという女性が生きた軌跡を描き続けます。ただ、その描写がぴんときませんでした。戦時中を経験した方々の生の声はいろいろ聞いていますが、本作で描かれたような世界ではなく、もっと切羽詰まっているというか、懸命さがあるのです。

この世界の片隅に

道ばたの草を採った話といった食料調達、物資がない中でどのように暮らしたか、あるいは空襲や防空壕の話、疎開時の経験、子どもを抱えた親たちの苦労など、聞いてきた話はもっとシビアであり、この映画で描かれたような雰囲気ではなく、へんな言い方をするとぬるくない?という印象でした。

もちろん地域によって差はあると思いますし、どれだけ悲惨だったか、たいへんだったかを比べる必要はないのですが、これまで聞いてきた体験談、経験談からは少し離れすぎていたため、するするっと時間が流れていく感じにとらわれました。

そして物語が終盤に差し掛かったときに、すずから発せられる憤り、慟哭。これがまた「えっ?」という印象に。そこまでに描かれたすずが言うセリフには聞こえず、なんというか唐突というか……もちろんそのセリフにいたる過程がないわけではありませんが、これはすずが言うセリフじゃないのでは?というのが素直な意見です。

この世界の片隅に

戦後70年以上が経過し、終戦時に20歳だった人が90代になっている。映画を作っている人達ももちろん戦後生まれであり、描かれていることはヒアリングした結果から生まれたものです。その当時の話はきちんと次の世代へも語り継いでいかなければなりませんが、この20~30年、それがきちんとできていたかな?という思いも頭をよぎります。

開戦から終戦、そして戦後を生きた人達から生の声を聞いた世代は、それを次の世代へ正確に伝えられていただろうか。そんな反省とともに、自らの行いを振り返る機会を与えてくれた、そういう映画でした。

余談ですが、人さらい(?)の話は必要ですかね? あのおかげでよけいにふんわりしてしまったというか、ファンタジーになってしまっているというか。そこに込められたメッセージがよくわかりませんでした……。

『この世界の片隅に』は、現在ロードショー中です。

(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

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