MOVIEW SNS:Bluesky Threads Twitter Instagram YouTube

Vol.253 『シン・ゴジラ』

TOHOシネマズ日本橋にて『シン・ゴジラ』を鑑賞。12年振りに復活した国産ゴジラ映画の最新作。脚本・総監督を庵野秀明さん、監督・特技監督を樋口真嗣さんが担当しています。

東京湾で大量の水蒸気が吹き上げ、東京湾横断道路のトンネル崩落事故が起こる。局地的な地震か、海底火山の噴火なのか? 対策本部を立ち上げ、対応を協議する政府の中で、内閣官房副長官の矢口だけが巨大生物の可能性を示唆するが一笑にふされてしまう。しかしそのとき、事故現場周辺からのTV中継が、海面から飛び出した巨大なしっぽを映し出すのだった……。

シン・ゴジラ

『FINAL WARS』から12年。待ちに待った国産ゴジラ映画がいよいよ公開されました。本来であればゴジラ公開から60周年の2014年に企画されるべき映画だったと思うのですが、震災の影響が大きかったですね。あの東日本大震災が起きた直後、これで当分ゴジラ映画が作られることはないなと思ったのと同時に、早くゴジラ映画を普通に作れるようになるといいなと思いました。

それがレジェンダリー版ゴジラを経て、ようやく実現したという感じでしょうか。ミレニアムのときもそうでしたが、ハリウッド版を観て重い腰をあげざるを得なくなるというようにも思えますが、逆に、本家のゴジラ映画はこういうものなのだと見せなければならない、重い責任を負う作品となります。

シン・ゴジラ

さて本作は、公開まで情報を完全シャットアウトし、あらすじすら公開されず、予告編で登場する映像以外はこれまで公表されてきませんでした。これは期待を膨らませる上で有効な戦略ではありましたが、観た後、これは戦略ではなく、出しようがなかったのだなという印象を持ちました。つまり、あの予告編がゴジラ映画としてはほぼすべてであり、その他の要素を出したらすべてネタバレになってしまう。

今回の映画は災害におけるこの国の対応のあり方を描いている映画であり、怪獣映画を期待して観に行くと肩すかしをくらいます。震災や台風といった災害時における国の対応、縦割りで融通が利かず、後手後手に回って有効な手段がなかなかとれないこの国の仕組みを、リアルという名目でただただ膨大な情報量を垂れ流している、そういう映画です。

その自然災害の代わりにゴジラが登場する。逆に言えば、ゴジラである必要が本当にあるのか。ゴジラ映画に政府がからんでくることはこれまでもありましたが、ここまでがっちり国が主体となった対ゴジラ映画はこれまでありませんでした。それがリアルなのだと思いますが、それは必要かといえば要らないような気がします。

シン・ゴジラ

ヒーローが主人公の作品で、悪の組織とヒーローが戦う。リアルに考えたら、その前に警察や機動隊、あるいは自衛隊が出てくるほうが自然です。国とか国民を守るといった要素において、人知れずヒーローが活躍していること自体、とても不自然。でもヒーロー作品はそれでいいんです。

ゴジラも一緒です。自衛隊が対応しようと、それを統括する組織・人物が矢面にたって延々会議をしたり、協議をしたり、検討したりする。そんな絵が必要かどうか。政治劇として本作を評価する声も多いようですが、本作でやる必要はないかと。

さて、映像のほうですが、今回は着ぐるみではないフルCGのゴジラが登場するわけですが、CGがCGに見えてしまったら、その瞬間にリアルも何もなくなります。どんなにリアリティを演出しようと、観ている対象が単なる絵に見えたら台無しです。そして本作では、最初に登場するしっぽでがっかりしてしまいました。

シン・ゴジラ

予告に登場するゴジラの出来映えがなかなかだっただけに、冒頭部分で冷めてしまう映像だったのは非常に残念です。スチールが公表されている上陸シーンや武蔵小杉での攻防なども臨場感はとてもあるのですが、とにかくゴジラが動かない。歩いてるように感じない。派手なアクションをすればいいというものではありませんが、恐怖も畏敬の念も感じないゴジラはただただ残念でしかありませんでした。

せめて1カットでも、この絵が観たかった!というカットがあればいいんですけどねぇ。たとえば海を泳ぐゴジラを下から撮った絵、清水寺の向こう側をのしのし歩くゴジラ、北海道の大平原を歩くゴジラの手前に牛、みたいな、これまでの映画でも1カットは必ず唸るシーンがあったのですが、そういう絵もなく……。

シン・ゴジラ

ストーリーとしては、震災という経験をした我々にとって興味深い内容ではありますし、話のテンポも悪くなく、おもしろい話だと思いますが、少なくとも、待ち望んでいたゴジラ映画ではなかったというのが本音でしょうか。逆に、怪獣映画なんて……などといってる人には、一般的な映画として観られるかも知れないので、いい映画かも知れませんね。

この先、さらにゴジラの映画が作られるのかどうかは、本作の評価次第だと思いますが、ゴジラが主役の、ゴジラがもっと活躍する、暴れ回る、そういう映画が観たいです。政府やら官僚やらが右往左往してるだけの作品ではなく……。

『シン・ゴジラ』は、現在全国ロードショー中です。

©2016 TOHO CO., LTD.

●次の記事もオススメ ——————
『シン・ゴジラ』ジェネレーターで、ゴジラのように東京を歩き回れる!

現実対虚構。怪獣王ゴジラ、12年の時を経て、ついに復活!

→『ゴジラ』の記事を探す