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Vol.172 『貞子3D』

貞子3DTOHOシネマズ渋谷にて『貞子3D』観賞。『リング』シリーズ最新作にして、初の3D映画。
『リング』や『らせん』は、その作品で描かれているファクターがタイトルに包括され、意味を持っていました。そしてシリーズ最新作となったこの作品のタイトルは『貞子3D』。「貞子」を「3D」で撮ったという、きわめてわかりやすく、それ以上の意味もそれ以下の意味も持たないタイトルだったのだと感じたのが鑑賞後の素直な感想です。


この作品の立体視は、昨今主流の奥行きを持たせる3D映像だけでなく、手前に浮かぶような映像も観られ、最初から3Dカメラを使った撮影による効果がよく出ていたと思います。3Dと言いながら疑似3Dであったり、3Dにする必要がまったくない映画が多い中、この作品の3D効果は非常にクォリティが高いという気がしました。逆に、その効果が強い分、テーマパークの立体映像アトラクションのようなイメージにもなってしまうのですが。
私は普段、邦画はあまりスクリーンで観ることがありません。そのいちばんの理由は、ほとんどの作品がテレビサイズで観ても十分であり、わざわざ映画館で観なくてもいい作品が多いことが挙げられます。今回この作品を観に行こうと思ったのは3Dで描かれる貞子がどのような画になるのかに興味があったためで、その点においては映画館で観てよかったなと思っています。
『貞子3D』は、『リング』シリーズの最新作といっても、前作からかなりの時間が経過しています。そのためか、この作品で初めてこのシリーズを観るという人を取り込もうとして、リニューアルをかけたという雰囲気。これまでのシリーズ作品をイメージしていくと肩すかしをくらいます。
『リング』の軸はなんといっても、不遇の死を遂げた貞子の憎悪、そして怨念が、すさまじいパワーをもって人々を苦しめ、死にいたらしめるという点と、その連鎖による呪いの広がりをどうしたら止められるのかという点で主人公たちが葛藤する姿にあると思うのですが、今作ではそういう展開がありません。
貞子もこれまでなかった物理的な攻撃を仕掛けてきますし、そこに憎悪や怨念といった観念世界はほとんど感じられず、凶悪なモンスターという位置づけ。この点については、これまでのシリーズを観てきた人と、この作品から観る人とでは、その印象が大きく異なるのではないでしょうか。どちらがいいことではなく、観る人のバックグラウンドに依存されて感じ方が変わるだろうなぁと。
個人的には、この作品における貞子のリニューアルは、恐怖感を薄くしてしまったように感じました。これまでのシリーズがなぜ怖かったのかといえば、やはり底知れぬ怨念といった感情がひしひしと感じられる展開で描かれたからこそだと思うのです。『リング』がJホラーという名前で海外に受け入れられたのは、他の国にはあまりない、日本特有といってもいい“怨念”に対する恐怖があったからではないでしょうか。
海外でも恨みをもった幽霊という話がないわけではありませんが、それで取り殺されるような話はあまりありません。ところが日本人というのは、古来から怨念というものに恐怖の念を抱いてきた部分があります。たとえば世界の歴史では、新しい支配者は古い支配者の痕跡を徹底的に壊そうとします。侵略者が原住民の文化を否定して自分たちの文化を強要するという話はたくさんありますよね。
これが日本では、滅ぼした元の支配者のたたりを恐れ、その霊による障害が起こらないようにしたりします。大和朝廷が出雲を攻め滅ぼした後、その霊を慰め、鎮めるために作った出雲大社は、その当時の建造物の中でもっとも大きなものでした。こんな国、ほかにはないわけで、それぐらい怨霊やたたりといったものを恐れる人種なわけです。
そして『リング』では、その怨念がとても強く、しかも伝播していき、止めようと思っても止められない。そこに最大の恐怖があり、最終的に貞子というキャラクターへの恐怖心につながります。しかし、今回はそれがない。だから怖さが薄らいでしまった。
その分、凶悪さやその強さが強調され、クリーチャーとしての貞子像ができたとも思います。これは、日本というよりも海外で受け入れられるんじゃないかなぁ。ハリウッドとかはこういうキャラクターのほうが好きなような気がします。『貞子VSキャリー』とか企画しそうな、そんな気がする……(^_^;)
さて、もう一つこの作品を観たいと思った理由があります。これまでのシリーズで「呪いのビデオ」として貞子の怨念を伝播させていたメディア=ビデオが世の中からなくなり、この作品ではコンピュータネットを介した「呪いの動画」として登場する。PCはもちろん、携帯電話などでもその動画は流通し、広がっていくという設定。これがどのようなシナリオになっているのかがとても気になっていました。
SNSなどが日常的に使われるようになった現在。その伝播のスピードは20世紀とは比べものにならなくなっています。その状況でどのように伝わり、どのように広がり、負の連鎖が起こっていくのか? そしてそれをどう止めるのか?がどう描かれているか。そこを楽しみにしていったのですが、さきほども書いたように、そういった描写がなく、ちょっと残念でした。
「呪いの動画」もBBSに書かれているURLをたどっても404エラー(ファイルがない)になるばかり。何か認証が必要なサイトの奥の方にあってそれを探し出さないといけないとか、そのパスワード自体に秘密があるとか、そういう展開を期待したのですが……貞子側から逆アプローチしてくるという、ある種、意表をついた(?)展開……。何も操作していないローカル端末にネット側からデータを送信してくるって……いやぁ、この映画でいちばん怖いシーンでしたね。そんなことが可能だったらとんでもないことになるなぁと。
コンピュータネットを介して云々という売り文句のわりに、こうした部分への理解が足りない感じがあったり、シナリオや描き方が少々雑なのが気になりましたね。もう少し現在のネット環境や使われ方がからまったシナリオになっていると思っていたので……。
そういえば、主人公の家のPCに「呪いの動画」が映し出されるシーン。石原さとみさん演じる主人公が「止めて!止めて!」とパニックになるわけですが、その恋人役の瀬戸康史さん、なんかキーボードを一生懸命叩いてましたw まず電源とかケーブルとか抜こうよ(^_^;)
全体的に怖さよりも、音と映像で驚かす映画という印象が強いこの作品。映画を観終わって外へ出たときに、携帯の電源を入れるのをためらうぐらいの怖さは欲しかったですね。
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