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『二重生活』ロウ・イエ監督来日、東大特別講義&宮台真司対談イベント

1月24日(土)より公開された『二重生活』を引っ提げ来日を果たした中国の鬼才ロウ・イエ監督による、トークイベントが東京大学で行われました。
また社会学者の宮台真司氏とのトークイベントも開催されました。

二重生活


●「海賊版DVDで日本映画を勉強した」ロウ・イエ監督特別講義
日時:2015年1月23日(金)
場所:東京大学・本郷キャンパス 石橋信夫記念ホール
ゲスト:ロウ・イエ(映画監督)、樋口毅宏(作家)、刈間文俊(東京大学教授)
カンヌ国際映画祭(ある視点部門オープニング作品)で予測不能のジェット・コースター的展開のミステリーで観客を驚愕させた映画『二重生活』を引っ提げ来日を果たした中国の鬼才ロウ・イエ監督が23日、東京大学で行われたトークイベントに出席。

二重生活

本作は、天安門事件を扱った『天安門、恋人たち』で映画製作・上映禁止処分を受けたロウ監督が、禁止令解除後、5年ぶりに中国で製作した衝撃のメロドラマ・ミステリー。経済発展が著しい武漢市を舞台に、交通事故で死亡した女子大生、彼女と最後に接触した二つの家庭を持つ男、その妻と愛人が織り成す複雑な物語がスキャンダラスに展開します。
この日のイベントには、『タモリ論』、『日本のセックス』などで知られる作家の樋口毅宏氏と、中国の現代文学を研究し、中国映画のも精通する同大学の刈間文俊同大学教授も出席しました。
ロウ監督は、「中国での5年間の撮影、上映禁止後の作品なのでとても映画館で公開出来てとても感慨深い」と、再スタートへ意欲満々の様子を見せました。著書『日本のセックス』が『天安門、恋人たち』に影響を受けたという樋口さんは、本作を観終わったあとの余韻に浸りながら、「困ったことに、年が明けてまだ1月ですが、もう今年のベストワンを観てしまった感じですね」と放心状態。さらに、「割とありきたりなテーマなのですが、ロウ監督の手にかかると、新たな息吹が感じられ、『こんな映画、初めて観た!』という錯覚に陥ってしまう」と、すっかり本作の魔法にかかってしまった様子。
一方の刈間教授も、「経済的に世界第2位となった今の中国をどう描くのか、予想が付く映画はたくさんあるが、この作品は『こんな撮り方をするのか!』という驚きがありました。現代中国の都市を生きる焦燥感が画面から伝わってきましたね。新しい感性というか、とても成熟している」と絶賛。また、中国語の原題『浮城謎事』にも言及し、「城は都市を表しますが、水の上を漂う根無し草の意味も込められていると思う」と作品を評しました。
これに対してロウ監督は、二人の称賛の言葉に感謝しながら、「この映画は、メイ・フォン(『スプリング・フィーバー』、『天安門、恋人たち』などロウ監督と共に脚本を手掛ける盟友)と一緒に、主に日本の1970~80年代辺りの作品を参考にしました。特に松本清張原作、野村芳太郎監督の『砂の器』などから大きな影響を受けています。中国の電影学院の学生や監督たちは、これはあまり大きな声では言えませんが、みんな海賊版DVDで日本映画を学んでいます」と、自身の映画が日本映画から大きな影響を受けていることを明かしました。
会場に駆け付けたファンから、「『天安門、恋人たちは』は、村上春樹の『ノルウェイの森』に影響を受けているのか」との質問に対しては、「確かに村上春樹は読んでいた。日本の1968年は1989年の天安門事件後の中国と共通する雰囲気だったと思う」と述べ、それは影響を受けた一部の要素であり、全てではないと語りましたた。
●宮台真司、『二重生活』ロウ・イエ監督に告白、「私はニンフォマニア(色情症)だった」
日時:2015年1月24日(土)
場所:新宿K’s cinema
ゲスト:宮台真司(社会学者)、ロウ・イエ(映画監督)
社会学者の宮台真司氏が24日、東京・新宿K’s cinemaで初日を迎えた映画『二重生活』のトークイベントに出席し、ロウ・イエ監督と作品における街の描き方や本妻、愛人、そして女子大生と交わりを持ちながらも満たされない主人公の心情について熱いトークを展開しました。

二重生活

いきなり宮台氏は、「私は1980~90年代、街のフィールドワーカーであり、援助交際のフィールドワーカーでもあった。いわゆるニンフォマニアでしたね」と、大胆な自己紹介をすると、ロウ監督は、「そういえば、宮台さんはヨンチャオ(二重生活を送る主人公)と雰囲気が似ていますね」と大いに共感した様子を見せ、会場は笑いの渦に。
さらに宮台氏は、「ここ10年、20年、街が冷えてしまって恋愛のカオスがなくなった。そういった意味でこの映画に懐かしさを感じた。監督の中で、何か失われつつあるカオスを描いているという意識はなかったのか?」と切り込むと、ロウ監督は、「確かにそうですね、カオスの中にさまざまな階層の人たちが集まってくるところに凄く関心がある」と同意。経済発展が著しく、貧富の差が激しい武漢を舞台に選んだのも、監督が意図する街のイメージに合致したからでしょう。
また、ロウ監督は、「本国では、この映画は女性に焦点を当てた作品だと思われている。その点について一部分は認めるが、これは男性を描いている映画だと私は思っている」と強調。これに対して宮台氏は、「ヨンチャオと自分を重ねてみたが、彼は決して性欲過剰な男ではない。それは、思い描いていた中流家庭にどこか満たされない、心の空洞のようなものを埋めるために、次々と女性とセックスを重ねていているように感じる」と分析。
これに対してロウ監督は、「中国のメディアから、『彼は全て揃っているのにいったい何がしたいんだ?』とよく聞かれることがある。彼はずっと何かを探し続けている男。ところがそれが何かわからないから、最後に危険な道に走ってしまう」と、主人公に込めた思いを語りました。
『二重生活』
新宿K’s cinema、渋谷アップリンクほかで公開中